パンのふくらみの宇宙

そらに浮かぶ気球を想像してほしい、気球はパンだと。
それらはともにふたつの基本構造をもっている、皮膜とガスだ。
気球はヘリウムガスを満たして空に浮く、パンは炭酸ガスをはらんで大きくふくらむ。パン酵母はパン生地の糖分を食べて、分解してアルコールと炭酸ガスを放出する。その炭酸ガスはパン生地に捉えられ閉じ込められてパン全体をもちあげる。だから酵母が活発に活動すればするほどガスは多くなり、パンはふくらみやわらかい食感になる。パン生地のなかで酵母菌たちは生殖活動をし、ハッハッとガスを吐いているんだ。
そのガスを閉じ込め抱えているのが、グルテンの膜。小麦粉のタンパク質にはグルテニンとグリアジンという兄弟が住んでいる、ここに水と時間を加えてよく捏ね上げると、このふたりがからみあって織りあわさって網の目状の膜をつくる、これがグルテン。米にもソバにも、ライ麦粉にさえない小麦粉だけの得意技。このグルテン膜がガスを大きく包みこんでいる。
活発に生きる酵母菌と彼らが出すガスをしっかりと抱きこみながらも柔軟に伸びていく膜、ほら、それは君がふくらます風船ガムのようで、気球のようで、大気を抱く星のようでしょう。