のりくらに行きました。

ameen2008-01-15

このお正月、のりくらに行ったことを書いておこう。  10年前に働いていたパン屋ル・コパンを訪ねたんだ。 石釜と薪でパンを焼いているル・コパンで、僕は勘で火加減と温度を手で見てパンを焼くことを覚えさせてもらった。 この感覚はいまガスのオーブンを使っていても役立っていると思う、温度計なんかなくてもパンは焼けるぞ、という気概が吹雪の中、ル・コパンの石釜に火を燃やしながら僕の中に育ったのだろう。
1月の3日、寒気の去った乗鞍高原は一面すっぽりと雪にうまっていた。 ほんとうに ”High Winds White Sky 風は舞い、空白く” 雪の世界だった。 バス道からはずれると、もう車道がどこからどこまでかがかあやしくなってくる、 ゆっくりゆっくり車を走らせて10年前の道の記憶を引き出してくる。 そうそう、このカーブはすべりやすい、気をつけて、この坂を加速をつけて一気に上がるべし。 車を止めて、途中のホームセンターで買ってきた長靴をはいて雪の上に降りると、とたんに雪山の静けさに包まれる。 長靴が雪に沈む音も、話している自分の声もバタリと閉めた車のドアの音も、妙にくっきりしている。 音は、すぐその場で切り取られて真っ白な雪の上にペッタリと貼り付けられてしまうようだ。 そして見上げると、乗鞍の山々がそびえている。
ル・コパンで働いていたある日、作業の片づけも早く終わって、僕はパン工房から少し離れた乗鞍の山が正面に見える高台の草の上に座っていた。なんでもない、ただ午後の日差しがうれしかったのだと思う。 しばらくするとル・コパンのオーナーがやって来て、少しのあいだ一緒に山をながめた。 たいした話はしなかったと思う、でもこの人がここに住み、生きていくと決めた気持ちが伝わってきた。  標高1200mで日々暮らすことは、きっと標高8000mの登頂より大変ではないですか? ねぇ、りんげんさん。